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あおぞら

2006年09月16日

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」24 大久保ゆう訳

24

 おかしくなって、さばくに下りてから、八日め。ぼくは、ものうりの話をききながら、ほんの少しだけのこっていた水を、ぐいとのみほした。

「へえ!」と、ぼくは王子くんにいった。「たいへんけっこうな思いで話だけど、まだひこうきがなおってないし、もう、のむものもない。ぼくも、ゆっくりゆーっくり水くみ場にあるいていけると、うれしいんだけど!」

「友だちのキツネが……」と、その子がいったけど、

「いいかい、ぼうや。もうキツネの話をしてるばあいじゃないんだ!」

「どうして?」

「のどがからからだと、すぐにでも死んじゃうんだよ……」

 その子は、ぼくのいいぶんがわからなくて、こういった。

「友だちになるっていいことなんだよ、死んじゃうにしても。ぼく、キツネと友だちになれてすっごくうれしくて……」

 ぼくはかんがえた。『この子、あぶないってことに気づいてない。はらぺこにも、からからにも、ぜったいならないんだ。ちょっとお日さまがあれば、それでじゅうぶん……』

 ところが、その子はぼくを見つめて、そのかんがえにへんじをしたんだ。

「ぼくだって、のどはからからだよ……井戸《いど》をさがそう……」

 ぼくは、だるそうにからだをうごかした。井戸をさがすなんて、ばかばかしい。はてもしれない、このさばくで。それなのに、そう、ぼくらはあるきだした。

 

 ずーっと、だんまりあるいていくと、夜がおちて、星がぴかぴかしはじめた。ぼくは、とろんとしながら、星をながめた。のどがからからで、ぼうっとする。王子くんのことばがうかんでは、ぐるぐるまわる。
「じゃあ、きみものどがからから?」と、ぼくはきいた。

 でも、きいたことにはこたえず、その子はこういっただけだった。

「水は、心にもいいのかもしれない……」

 ぼくは、どういうことかわからなかったけど、なにもいわなかった……きかないほうがいいんだと、よくわかっていた。

 その子はへとへとだった。すわりこむ。ぼくもその子のそばにすわりこむ。しーんとしたあと、その子はこうもいった。

「星がきれいなのは、見えない花があるから……」

 ぼくは〈そうだね〉とへんじをして、月のもと、だんまり、すなのでこぼこをながめる。

「さばくは、うつくしい。」と、その子はことばをつづけた……

 まさに、そのとおりだった。ぼくはいつでも、さばくがこいしかった。なにも見えない。なにもきこえない。それでも、なにかが、しんとするなかにも、かがやいている……

 王子くんはいった。「さばくがうつくしいのは、どこかに井戸がかくしてるから……」

 ぼくは、どきっとした。ふいに、なぜ、すながかがやいてるのか、そのなぞがとけたんだ。ぼくが、ちいさなおとこの子だったころ、古いやしきにすんでいた。そのやしきのいいつたえでは、たからものがどこかにかくされているらしい。もちろん、だれひとりとして、それを見つけてないし、きっと、さがすひとさえいなかった。でも、そのいいつたえのおかげで、その家まるごと、まほうにかかったんだ。その家に、かくされたひみつがある。どこか、おくそこに……

「そうか。」と、ぼくは王子くんにいった。「あの家とか、あの星とか、あのさばくが気になるのは、そう、なにかをうつくしくするものは、目に見えないんだ!」

「うれしいよ。」と、その子はいった。「きみも、ぼくのキツネとおなじこといってる。」

 王子くんがねつくと、ぼくはすぐさま、その子をだっこして、またあるきはじめた。ぼくは、むねがいっぱいだった。なんだか、こわれやすいたからものを、はこんでるみたいだ。きっと、これだけこわれやすいものは、ちきゅうのどこにもない、とさえかんじる。ぼくは、月あかりのもと、じっと見た。その子の青白いおでこ、つむった目、風にゆれるふさふさのかみの毛。ぼくはこうおもう。ここで見ているのは、ただの〈から〉。いちばんだいじなものは、目に見えない……

 ちょっとくちびるがあいて、その子がほほえみそうになった。そのとき、ぼくはつづけて、こうかんがえていた。『ねむってる王子くんに、こんなにもぐっとくるのは、この子が花にまっすぐだから。花のすがたが、この子のなかで、ねむってても、ランプのほのおみたく、きらきらしてるから……』そのとき、これこそ、もっともっとこわれやすいものなんだ、って気づいた。この火を、しっかりまもらなくちゃいけない。風がびゅんとふけば、それだけできえてしまう……

 そうして、そんなふうにあるくうち、ぼくは井戸を見つけた。夜あけのことだった。

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おかしくなって、さばくに下りてから、八日め。ぼくは、ものうりの話をききながら、
2006年11月08日 09:33

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