アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」13 大久保ゆう訳
ゆれる

2006年08月05日

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」14 大久保ゆう訳

14

 いつつめの星は、すごくふしぎなところだった。ほかのどれよりも、ちいさかった。ほんのぎりぎり、あかりと、あかりつけの入るばしょがあるだけだった。王子くんは、どうやってもわからなかった。空のこんなばしょで、星に家もないし、人もいないのに、あかりとあかりつけがいて、なんのためになるんだろうか。それでも、その子は、心のなかでこうおもった。

『このひとは、ばかばかしいかもしれない。でも、王さま、みえっぱり、しごとにんげんやのんだくれなんかよりは、ばかばかしくない。そうだとしても、このひとのやってることには、いみがある。あかりをつけるってことは、たとえるなら、星とか花とかが、ひとつあたらしくうまれるってこと。だから、あかりをけすのは、星とか花をおやすみさせるってこと。とってもすてきなおつとめ。すてきだから、ほんとうに、だれかのためになる。』

 その子は星にちかづくと、あかりつけにうやうやしくあいさつをした。

「こんにちは。どうして、いま、あかりをけしたの?」

「しなさいっていわれてるから。」と、あかりつけはこたえた。「こんにちは。」

「しなさいって、なにを?」

「このあかりをけせって。こんばんは。」

 と、そのひとは、またつけた。

「えっ、どうして、いま、またつけたの?」

「しなさいっていわれてるから。」と、あかりつけはこたえた。

「よくわかんない。」と王子くんはいった。

「わかんなくていいよ。」と、あかりつけはいった。「しなさいは、しなさいだ。こんにちは。」

 と、あかりをけした。

 それから、おでこを赤いチェックのハンカチでふいた。

「それこそ、ひどいしごとだよ。むかしは、ものがわかってた。あさけして、夜つける。ひるのあまったじかんをやすんで、夜のあまったじかんは、ねる……」

「じゃあ、そのころとは、べつのことをしなさいって?」

「おなじことをしなさいって。」と、あかりつけはいった。「それがほんっと、ひどい話なんだ! この星は年々、回るのがどんどん早くなるのに、おなじことをしなさいって!」

「つまり?」

「つまり、いまでは、一分でひとまわりするから、ぼくには休むひまが、少しもありゃしない。一分のあいだに、つけたりけしたり!」

「へんなの! きみんちじゃ、一日が一分だなんて!」

「へんじゃないよ。」と、あかりつけがいった。「もう、ぼくらは一ヶ月もいっしょにしゃべってるんだ。」

「一ヶ月?」

「そう。三〇分、三〇日! こんばんは。」

 と、またあかりをつけた。

 王子くんは、そのひとのことをじっと見た。しなさいっていわれたことを、こんなにもまじめにやる、このあかりつけのことが、好きになった。その子は、夕ぐれを見たいとき、じぶんからイスをうごかしていたことを、おもいだした。その子は、この友だちをたすけたかった。

「ねえ……休みたいときに、休めるコツ、知ってるよ……」

「いつだって休みたいよ。」と、あかりつけはいった。

 ひとというのは、まじめであっても、なまけたいものなんだ。

 王子くんは、ことばをつづけた。

「きみの星、ちいさいから、大またなら三ぽでひとまわりできるよね。ずっと日なたにいられるように、ゆっくりあるくだけでいいんだよ。休みたくなったら、きみはあるく……好きなぶんだけ、おひるがずっとつづく。」

「そんなの、たいしてかわらないよ。」と、あかりつけはいった。「ぼくがずっとねがってるのは、ねむることなんだ。」

「こまったね。」と王子くんがいった。

「こまったね。」と、あかりつけもいった。「こんにちは。」

 と、あかりをけした。

 王子くんは、ずっととおくへたびをつづけながら、こんなふうにおもった。『あのひと、ほかのみんなから、ばかにされるだろうな。王さま、みえっぱり、のんだくれ、しごとにんげんから。でも、ぼくからしてみれば、たったひとり、あのひとだけは、へんだとおもわなかった。それっていうのも、もしかすると、あのひとが、じぶんじゃないことのために、あくせくしてたからかも。』

 その子は、ざんねんそうにためいきをついて、さらにかんがえる。

『たったひとり、あのひとだけ、ぼくは友だちになれるとおもった。でも、あのひとの星は、ほんとにちいさすぎて、ふたりも入らない……』

 ただ、王子くんとしては、そうとはおもいたくなかったんだけど、じつは、この星のことも、ざんねんにおもっていたんだ。だって、なんといっても、二四じかんに一四四〇回も夕ぐれが見られるっていう、めぐまれた星なんだから!

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いつつめの星は、すごくふしぎなところだった。ほかのどれよりも、ちいさかった。ほ
2006年09月06日 11:48

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