青空文庫全部入り CD-ROM「蔵書5000」
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「あのときの王子くん」9 大久保ゆう訳

2006年07月17日

 鏡花 at 歌舞伎座

 夏休みに、歌舞伎座に行って、鏡花の芝居を見てきた。ちょっと、感想を残しておく。

 歌舞伎座の七月公演は、鏡花尽くし。「夜叉ヶ池」「海神別荘」「山吹」「天守物語」の4篇を上演している。都合で、昼の部の「夜叉ヶ池」「海神別荘」のみを見る事が出来た。
 結論から言って、素晴らしい出来であった。私は、歌舞伎座の役者さんをほとんど知らず、またスタッフについても、当日パンフレットを買ってから、「海神別荘」の美術が天野喜孝さんであることを知ったくらい、不勉強であった。ただ、「夜叉ヶ池」「海神別荘」ともに青空文庫のファイルの入力に携わったので、文字のレベルで作品に関してはよく知っているという嫌な観客の一人であろう。
 まず、「夜叉ヶ池」について。どの役者さんも素晴らしい演技であった。光ったのは山沢学円の役者さんと姥役の役者さん、そして百合/白雪の二役をされた役者さんであった。鏡花のセリフは、長くて独特なので、大変であったと思う。しかし、どの役者さんも、鏡花のセリフの味を殺すことなく、演じておられた。二役という演出のためか、最後のシーンが少し変ってしまっていたことが少し不満であるくらいであった。この戯曲は、いろいろな時代が語られるのだが、通して見ると、学円が暮れ六つの鐘に訪れてから丑満の鐘までに起こったことが現代での中心の時間軸となっている。このことがはっきりと示せなかったことが残念なのである。ただ、妖怪総出の場面などは、大変によい出来であったと思う。
 そして、「海神別荘」。こちらは演技、演出、全て素晴らしい出来であった。天野喜孝氏の美術を最大限生かすために、変更された細かい設定なども全てうまく機能していた(侍女の服装が洋装から和装のようなものに変更されていること、など)。そして、公子役の方と美女役の方の演技は、何も文句を言うところがない。公子役の方の演技は、鏡花のセリフに込められた感情を、その声で全て表現できていた。そして、美女のセリフは、かなり短い、途切れ途切れのものが多いのだが、そのセリフを以て、美女役の役者さんは、美女の持つ情念を見事に表現していた。勝手なことを言わせてもらえれば、鏡花が見て満足する出来であったと思う。この芝居、鏡花の存命中には上演されなかったはずだ(点のない大正では、存命中に上演されていますが)。鏡花の感想を聞いてみたい、そんな出来であった。
 二つの芝居を見て、強く感じたことがある。鏡花作品は、聴いて楽しむものだということだ。鏡花のセリフを聴くことが、これほど素晴らしいとは思わなかった。また、そのレベルの芝居をやってくださったということでもある。こんな素晴らしい芝居を上演してくれた歌舞伎座の皆さん、役者の皆さんに感謝したい。
 「鏡花読み」という言葉がある。電子上で保存された鏡花作品は、いつか誰かの声で語られた「聴く作品」になってくれると信じている。また、そんな素晴らしい鏡花を聴くためにも、少しでも多くの鏡花作品を電子化しておきたいと思う。

★この文章を書いた人→門田裕志★こんな時間に→2006年07月17日 20:43 ★トラックバック


 コメント

まだ上演中です。機会があれば、一度見に行ってみてください。

Posted by: 門田 at 2006年07月17日 21:04

そういえば、「海神別荘」にはカーテンコールまであった。一緒に観ていた友人によると、歌舞伎座ではカーテンコールなどはないそうである。

Posted by: 門田 at 2006年07月17日 21:20

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