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『斎藤茂吉全集』より
月山 七月二十二日
東より朝あけわたるほのひかりいよいよ山に登りてゆくも
ほほの木の實はじめて見たる少年に暫しは足をとどめて見しむ
※[#木+無]の實のおちゐる道を踏みながらやうやく明けし峡にかかりぬ
山谷にあやしく鳴ける蝉のこゑ
宿いでて二里半あるき立石澤流れに著きぬさ霧の中を
山ふかく人りつつ來り驚くべし谿に生ふる草の秀でたるさま
この谷の空にこもりてにぶきこゑ
水芭蕉山煙草などいふものをわが子の茂太もわれも見てをり
からす川といふ名をもち山そこに寂しき川は流れてゆくも
わが家より持ちて來りし胡瓜漬を
その
小屋見れば兎の足が六十餘りあり冬に來りて狩せるらしも
渓にしぶく夏の雨強み
月山の山の腹より湧きいづる水は豊けし
月山の山腹にして
しづかなる心になりて音ごもる氷の谷を上りゆきつも
眞夏日の光といへど消えがてぬ雪谿のうへに雨降りにけり
谷うづめ消え殘りたる氷には蠑※[#「虫+原」、第3水準1-91-60]が一つ死ぬる寒けさ
月山の谷のこほりに水蜻蛉蝶蜂なども死に居りにけり
雪谿はきびしくもあるかわが體こごゆる程にさ霧はのぼる
雪谿ゆのぼるけむりの渦巻くとあやしきまでに雪解するらし
この山の氷の谿の底にしてとどろく音は雪消ゆるみづ
この山にのぼる旅びと黒百合をいくつか掘りて持ちゆかむとす
雨の降る氷のうへをわたり來て月山のみねに手を暖めぬ
けむりあげて雪の解けゐる月山をひたに急げり日は傾くに
山形に住んでいながら、小・中・高校と、斎藤茂吉のことについて教わった記憶がありません。単に忘れただけかもしれませんが。上山出身のとぼけたおっさんで、最上川をうたったり、母親の死をうたったりしている。上山《かみのやま》という地名もあらためて考えてみれば、いわくありげです。眼のまえには蔵王がひかえている。昨年競馬場が廃止になる。宮本武蔵の師、沢庵和尚が一時期居た。上山高松の手漉き和紙は、うるしの汁を濾すのに使われたという。
あまりに膨大すぎて、茂吉をどこから読んだらいいのか手をつけられずにいたのですが、芳賀徹さんから『接吻』にまつわるエピソードを聞いてから気が楽になりました。短歌というと親しみがわかなかったけれど、エッセイのほうからだと入りやすかったです。さらに、身近な「月山」へ登ったときの短歌があることを知り、読んでみることにしました。茂吉は生涯に何度か月山を訪れています。
ことしも、さくらんぼどろぼうのニュースが流れる季節となりました。さくらんぼ東根駅のブロンズさくらんぼは、いまのところ無事のようです。「どろぼうのおかげでやまがたのさくらんぼの認知度があがってくれてうれしい」などというさくらんぼ農家の声を聞くと、世の中、そんなもんかと。笑っていいやら、なげいていいやら。
2004.6.20
しだひろし/PoorBook G3'99
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