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「書店の近代 本が輝いていた時代」(小田光雄著、平凡社新書、平凡社)を読んだ。
書名のとおり、江戸末期から昭和に至る書店の近代史を、いくつかの観点から述べたものなのだが、象徴的に登場するのが「丸善」である。「近代書店としての丸善」で成り立ちを示し、「尾崎紅葉と丸善」「芥川龍之介と丸善」「梶井基次郎と京都丸善」「丸善の店員だった佐多稲子」で各作家とのかかわりに言及して、全25章のうち、5章が「丸善」に費されている。1998年まで生きた佐多稲子は別として、尾崎紅葉、芥川龍之介、梶井基次郎といえば、青空文庫でおなじみの顔ぶれだ。章の名前には出てこないが、丸善といえば内田魯庵の名も欠かすわけにはいくまい。青空文庫に収録されている著作権切れの作家たちが活躍した時代は、他のさまざまなものと同様、日本の書店が「近代」を歩んだ時代と重なっている。そして、その象徴が「丸善」だったというわけだ。
そんなことを考えながら本を読んでいると、青空文庫に登場する「丸善」が気になってくる。早速、トップページにあるgoogleの検索窓で「丸善」を検索してみよう。
検索結果を見ると、いきなり丸善が焼けた話だ(「内田魯庵 灰燼十万巻(丸善炎上の記)」)。「近代書店としての丸善」では、内田魯庵と丸善とのかかわりが述べられているが、章の末尾で、この火事が登場する。1909(明治42)年12月に焼けた丸善は、翌年に再建され、有名な赤煉瓦の建物に変わった。
寺田寅彦は、「丸善と三越」で、「昔の丸善の旧式なお店(たな)ふうの建物が改築されて今の堂々たる赤煉瓦(あかれんが)に変わったのはいつごろであったか思い出せない。たぶん自分が二年ばかり東京にいなかった間の事であろうと思う。」と述べ、昔の暗い丸善のほうがよかった、と懐かしむ。「灰燼十万巻」の火災は、寺田寅彦が1909年3月から1911年6月にかけてドイツに留学している間のできごとであったらしい。科学の研究をしていた寺田にとって、洋書は欠かせない情報源であっただろう。「病室の花」によれば、彼がポインセチアという植物名の綴りを知ったのは、丸善から取り寄せた「近世美術」であったとのことだ。
丸善は、当時から、書籍だけでなく文房具も扱っている。内田魯庵からもらった万年筆で原稿を書いているのは夏目漱石だ(「余と万年筆」、「文士の生活」)。宮本百合子の登場人物も、丸善で万年筆を買っている(「帆」)。寺田寅彦によれば、小泉八雲も丸善で売っていたインクで絵を描いたとのこと(「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」)。
「或阿呆の一生」や「歯車」に登場する丸善の風景は、前述の「芥川龍之介と丸善」にも取り上げられている。「が、僕等は丸善のある為に多少彼等の魂を知つてゐることは確かである。」という「文芸的な、余りに文芸的な」の記述は、丸善が「世界への窓」であったことを示している。丸善という書店が、当時の「インターネット」だったわけだ。
「四五日おきに送り来る丸善よりの新刊の/本の頁(ページ)を切りかけて、」(「石川啄木詩集」)とうたう石川啄木は、西洋の雰囲気にひたりたいがために、とぼしい懐から洋書を買っては、また売り払うといったことを繰り返していたらしい。
ちょっと検索窓で検索してみただけでも、文士たちの背景に、丸善という通奏低音が常に鳴り響いていたのがよくわかる。ほんの30年か40年くらい前には、そういった時代につながる空気が、まだそれと感じられるくらいに残っていた。丸善炎上の頃に生まれた人々は、やっと還暦を迎える程度の年齢だったのだ。当時の子供たちにとって、それは歴史上のできごとではなく、自分たちと直接つながった祖父母の時代のことだった。
オンライン書店で海外の書籍を簡単に購入できる時代、広島の丸善は、2002年6月、40年にわたる歴史を閉じてしまった。広島で最古の老舗だったという積善館も、2003年4月29日、116年の歴史を閉じた。広島丸善があった場所に開店したのは、安売り専門のドラッグストアである。積善館の跡地は、携帯電話のショップになった。携帯電話よりもドラッグストアのほうがやりきれない気分になるのは、騒々しい音楽や呼び込みのテープが流れ、扱う品物があまりにも即物的だからかもしれない。
丸善のような「象徴」が、もはや存在しなくなってから久しい。近い将来、ベストセラー以外の新刊書籍はオンライン書店でなければ手に入らず、著作権が消滅するほど古い作品は、ネット上でしか読めない時代がやってくるのかもしれない。そういった時代に生まれた文学は、50年後、100年後に、どんな言葉で語られるのだろうか。
★この文章を書いた人→LUNA CAT★こんな時間に→2003年07月07日 00:08「丸善」の名前は、僕のイメージの中では単なる「書店」ではないんですね。もちろん「本を売っている店」ではあるんですが、あそこは高級文具店でもあり、これまた高級な洋服屋でもあるわけです。
昔、そうだな、僕が20歳になったばかりの頃、35年ほど前でしょうか、丸善で売っている「ほんもののバーバリー」はあこがれのまとでした。僕はJUNブランドのぺなぺなのコートを着て、いつかはバーバリーだと心に誓って(!)いたものです。
「紳士とはなんぞや」……読書を通じての教養(うーむ、懐かしい言葉だ)の獲得も含めて、その1つの回答が丸善にあったのだろうという気がします。
Posted by: 浜野 智 at 2003年07月07日 17:06丸善はハヤシライスの創案にも縁があるんですよねえ。
バーバリースーツとかも売っているんですよね。
文明開化、知識人のライフスタイルの象徴の場でもあるんですよね。
講談社現代新書「東京情報コレクション」(絶版)
図書館行ったら見ましょう。
Posted by: ラー at 2003年07月09日 18:12かつて愛知に住んでいた私は、名古屋の丸善に月に一回ぐらい通っていたことがあります。
雑誌売り場と雑貨・文房具売り場それぞれに入り口がありました。本だけではない、本以外にそこにあった全てをも合わせて丸善なのだ、と気づいたのは、愛知を出てしばらくたってからだったような気がします。
大きい図書館以外に、中高生が洋書に触れられる機会が持てるのは当時丸善ぐらいでした。洋書の注文の仕方を店員さんから教わったとき、とっても大げさですが、自分の周りの世界が広がった気分になったものです。
名古屋に丸善ができたときにどんなに地元の文士、本好き達に歓迎されたことか、LUNAさんの文を読んで想像しています。
もう何年行っていないだろう。
Posted by: Juki at 2003年07月10日 20:37丸善で売っている龍の模様の便箋と、芥川龍之介とは何か関係ありますか。
Posted by: at 2004年10月02日 10:30京都丸善は人生において長くつきあいたい書店ではない。
『丸善よりジュンク堂のほうがいい書店』です。
これは私が京都丸善に30年間通ったけれど、残念ながら、その上で出した結論です。
私は幼少のころから、丸善を利用してきました。でも、とみに近年、店員の応対がフレキシブルではなく、不愉快な思いをしていたので、丸善がつぶれるのは当然の気がします。売り場の人だけでなく内部の人も、担当者が不在であると、臨機応変に対処が出来ず、問題になったユニクロの店員とまったく同じマニュアル人間。自分の裁量で行動を決定することのできない雇われ人根性がまる出しになる、という印象しか受けません。
『丸善にいくといつも不愉快になり、ジュンク堂に行くといつも心地よい』。人と人とのふれあい方に違いは歴然です。丸善は歴史に安住したり、本を売っている自覚にかけたり、愛情を注いできた客との交流に柔軟性をもたせることの大切さを忘れて、老舗がゆえに高飛車な態度にでているようでは、新しく烏丸に店を出したとしても、足を向ける気にもなりません。
深く書店に関わらないのなら行ってもさしつかえないかもしれませんが、長くつきあう書店に丸善はふさわしくない。
Posted by: みき at 2005年06月07日 01:27
agさんに質問。レスの中のリンクがうまくないようです。
それから、rdf:タグがないエントリがあるのですが、これはこのままですか?
しみづさん、いつもありがとうございます。
レスのリンク、たしかにおかしいですね。
それとrdfのことも。
そういう部分、直したいんですが、ちょっとトラブってしまって、現在、管理者で入ることができなくなってしまっています。
修正するの、ちょっとお待ちください。
Posted by: ag at 2006年10月27日 14:27
気長にお待ちしております。rdfのことはそれほど重要ではなくなりました。
しみづさん、
rdfのほうは直しました。というか、もうrdfの拡張子ではなくて、xmlになっていました。MovableTypeのバージョンガ上がったと同時に、RSSも2.0が主体となったようです。
問題はコメント内のURLで、これはもう、古いMovableTypeの時のURLの扱いと、新しいMovableTypeのURLの扱いを変えてしまったので、直すとしたら、コメントを一つ一つ直していかなければならないようです。
すみません。
Posted by: ag at 2006年10月31日 18:36agさん、ご苦労様です。
>rdfのほうは直しました。というか、もうrdfの拡張子ではなくて、xmlになっていました。MovableTypeのバージョンガ上がったと同時に、RSSも2.0が主体となったようです。
むー、私はその辺は詳しくないので話が見えないのですが、エントリのソースを見ると、頭のほうに日付や著者などの書いてある
>問題はコメント内のURLで、これはもう、古いMovableTypeの時のURLの扱いと、新しいMovableTypeのURLの扱いを変えてしまったので、直すとしたら、コメントを一つ一つ直していかなければならないようです。
不可能ということですか? それはキツイですね。資料的価値が大きく下がってしまいます。
一応、ある程度最近までの、リンクをピックアップしてみました。
http://homepage3.nifty.com/01117/nlink.zip
なんとかならないものでしょうか。Perlとかで、一気に置換するとか。
ごめんなさい。半角の<はまずかったようです。前半を書き直します。
>rdfのほうは直しました。というか、もうrdfの拡張子ではなくて、xmlになっていました。MovableTypeのバージョンガ上がったと同時に、RSSも2.0が主体となったようです。
むー、私はその辺は詳しくないので話が見えないのですが、エントリのソースを見ると、頭のほうに日付や著者などの書いてある
しみづさん、
rdfは、確かにそうですね。ちょっと調査してみます。
コメントについても、ちょっと考えてみます。
前回のリストを編集してみました。
最悪の場合は、該当エントリにコメントとして訂正を載せるのもいいかな、と思うのですが。
http://homepage3.nifty.com/01117/slink.zip
引越し前のブログで、私が取り込んだ時点でもリンクがおかしかったものも、そのまま残してあります。正しいリンクがどこかに残っていればいいのですが。